株式会社SmartHR様は「well-working」をミッションに掲げ、すべての人がその人らしく働ける環境づくりのための機能を提供するSaaS企業です。事業拡大に伴い制作の依頼が急増する中、コンテンツ制作ツール「Adobe Express」を導入。デザイナー以外のメンバーがバナーを制作できる環境を整え、納品までのリードタイムを98%削減しました。導入の経緯や効果を、ブランディング統括本部に所属される、新田瑞希様と廣瀬康平様に伺いました。
事業の拡大に貢献するためにデザイン部門の生産性向上を目指す
新田様(以下、敬称略):
現在当社では、事業領域の拡大に伴い生産性の向上が急務となっています。近年デザイン部門で手がける案件数が急増し、これまで通り「デザイン部門がすべて対応する」体制が難しくなってきました。その環境を改善するために、私自身はデザイナーとしてではなく、事業貢献につながるデザイン組織の基盤づくりに専念しています。制作プロセスの整理、AIの活用推進、ツールの選定など、幅広い角度から取り組んでいます。
廣瀬様(以下、敬称略):
私はコミュニケーションデザインの領域で、アートディレクターを担っています。プロダクトデザインの部門が自社サービスそのもののデザインをするのに対し、私たちはマーケティングやセールス部門と連携しながら、顧客とのコミュニケーションに関わるクリエイティブを制作しています。
年間600件のバナー制作がデザイン組織のリソースを圧迫していた
廣瀬:
クリエイティブの制作依頼数は年々増加しており、年間1,260件に達しています。内容はアイキャッチやホワイトペーパー、ノベルティ、動画制作など多岐にわたります。
新田:
中でも依頼が多かったのが、年間約600件にものぼるバナー制作です。メールやデジタル広告、セミナーやオウンドメディアの告知など、マーケティング部門がさまざまな場面で活用します。これまですべてデザイナーが担当者から用件を聞いてオーダーメイドしていたため、繁忙期にはカオスな状況でした。
廣瀬:
通常バナーの制作は5営業日を設けていましたが、繁忙期は制作依頼が集中し制作の着手までに時間を要するため、7営業日に延ばす場合もありました。その結果、即時性が重要なコンテンツの発信に遅れが生じることもありました。
「バナーの民主化」を進めるツールとしてAdobe Expressを導入
新田:
バナー制作はコンテンツ発信を支える制作物である一方で、件数が多く迅速な対応が難しくなっていました。従来の進め方のままでは発信効果を十分に高めきれず、デザイナーが大型プロジェクトや企画段階の検討に充てる時間も圧迫されたため、バナー制作の工程を見直すことになりました。
まずは検証のため、いちから個別対応で制作したバナーと過去の作例をもとにスピード重視で作成したバナー、それぞれのクリック数などの数値を集め比較しました。結果として同等の成果を得られたため、日常的に施策を考えるマーケティング部門のメンバーがバナーを制作する「バナーの民主化」で効率化を図ることにしました。
さまざまなツールをリサーチする中で、アドビ製品はプロ向けツールであり、安定したサービス提供による信頼感と、直感的な使いやすさが印象的でした。決め手になったのは、制作データがアドビのAI学習に使用されないことが明示されている点です。当社では、自社のデータや社員の画像を使ったバナーを作成する機会も多く、この点は大きな安心材料になりました。
テンプレート機能を活用し誰でも迷いなくバナーを制作
廣瀬:
バナー制作の自走を進めるにあたって、最初に着手したのは「型化」です。デザイナーではない方が制作の際につまずきやすい、レイアウトや配色を中心としたSmartHRのグラフィック表現のトーン&マナーへの迷いを減らすことを最優先に、Adobe Expressのテンプレート機能を使ったテンプレートの設計から始めました。
すべての用途に対応できる万能なテンプレートはないため、まずはバナーの用途や掲載媒体ごとに分類しました。文字と画像を流し込むだけで成立させるために、バナーのサイズやアイキャッチとなる画像の配置、文字組み、色など、さまざまな要件を踏まえて30パターンほど作成しました。
例えば自社サービスのセミナー用のテンプレートでは、日付や説明文、配信形式など更新が必要な部分のみ編集可能に設定し、視認性に関わる行間・行頭の位置やフォントサイズ、ブランドに関わるロゴの余白・イラストは、ユーザーが変更できないようロックしています。
廣瀬:
使用できる素材は、デザイナーが選定したものをライブラリにまとめています。自社のロゴデータやオリジナルキャラクター、Adobe Stockから見つけた当社のトーンに合うイラストなどをアップし、ユーザーはここから選んで使用するため、トーンのブレを防ぐことができます。また、Adobe Stockの透かしのない本番用の素材を、そのまま活用できる点も便利です。
基本的な操作方法はワークショップでレクチャーしました。その甲斐あってか、導入後は操作方法に関する質問はほとんどありません。操作しながら自然と使い方が身についているようです。
4ヶ月間でバナー制作にかける時間を175時間削減。デザイン部門のリソース確保に貢献
新田:
Adobe Expressを導入して、バナー制作にかける工数は圧倒的に削減されました。4ヶ月間でマーケティング部門のメンバーによって35件のバナーが制作され、納品までのリードタイムは98%削減という結果が出ています。
以前は平均3営業日かかっていた制作期間が、Adobe Expressで制作すると1つあたり30分程度で制作できるようになっています。時間に換算すると175時間分が削減され、コミュニケーションデザイン部門のリソース確保に大きく寄与し、これまでよりも早くコンテンツのリリースができるようになったと言えます。
現在では40名以上がAdobe Expressを使用しています。自分たちでバナーを作れるようになったことで、バナーが完成するまでの待ち時間がなくなり、即時性が求められる時事ネタへの対応が格段にスピーディーになりました。バナーの要件整理をして依頼する工数も削減されています。
新田:
Adobe Expressを使用しているメンバーのほとんどはアドビ製品に初めて触りましたが、テンプレートと直感的な操作性のおかげで、デザイン知識の有無に関わらず再現性のある制作ができています。「バナー作りが楽しい」「自分で作れるようになって嬉しい」という声も上がっており、制作への心理的ハードルが大きく下がっていることを実感しています。
テンプレートを使って自由に制作してもらうことを基本としていますが、制作物に自信がない場合は、相談窓口に投げかけるとデザイナーが監修することもできます。監修の際はAdobe Expressの共有機能が役立っていて、制作したデータからURLを発行して共有すると、ブラウザ上で修正ができます。いちいちデータをダウンロードして、修正して、再度アップロードする手間がないのでスムーズです。
「ブランドは全員で醸成するもの」という意識
新田:
当初は、デザイン未経験の方にバナー制作を任せることへのハードルを懸念していました。しかしツールの導入が目的ではなく、会社のスピードを上げるという目的を掲げて推進したことで、成果につながったと感じています。
廣瀬:
みんなに共通する目的を掲げていたおかげで目的が明確になり、社内への説明にも一貫性が生まれました。
さらに、「バナーの民主化」によってブランドは全員で醸成するものだという意識が社内に醸成できたのではないかと思います。誰でも迷わず制作できる環境を整えるために、ブランドの軸である「SmartHR Design System」をデザイナー以外にも伝わるように翻訳したことが大きかったと思います。
良いクリエイティブというのは正解が無数に存在するため、制作時の迷いを完全になくすことはできません。そこで、当社のデザインシステムが掲げる「誠実」「ポジティブ」「わかりやすい」「親しみやすい」という、4つのパーソナリティに照らし合わせて、「やってはいけないこと」を明確に定義しました。例えば「誠実」に反するように数字の見せ方を操ったり、焦燥感を煽るような表現をしたりするなどのNGラインを具体的に共有することで、SmartHRらしいクオリティを守ることができています。現時点ではバナー公開によるトラブルは起きておらず、メンバーも制作がめきめきと上達しています。
デザインのような専門性の高い領域をデザイナーだけで抱え込むと、閉鎖的になりがちです。メールの文面や日々の言葉遣いにもブランドの姿勢は表れてくることから、誰もがアートディレクターになれるよう考え方の間口を広げながら、Adobe Expressの導入で生まれた時間で、デザイナーがより高度な領域を担うサイクルを回すことが大事だと思います。
活用領域の拡大とAdobe Fireflyの積極的な活用も視野に
新田:
当社では、従業員が使用するMacなどもTooから導入しています。Adobe Expressを他社から導入する選択肢ももちろんありましたが、TooはSlackでいつでも迅速にやり取りができるので、わからないことがあってもすぐに解決してもらえます。SmartHRはビジネスのスピードを重視する環境のため、当社とTooのスピード感がしっかり合っていることが、とてもありがたいです。
現在Adobe Expressはバナー制作がメインですが、他の制作物にも広げられないか検討を始めています。例えば、展示会出展の直前に急ぎでチラシ制作が必要になるケースもあるため、採用やセールス領域にも展開できる可能性があります。まだまだ掘れる宝の山はたくさんあるので、どう広げていくかを楽しみながら考えていきたいです。
また、さらなる効率化に向けて、Adobe Stockの画像を生成AIのAdobe Fireflyを使って思い通りに加工できるプロンプトを研究しています。ライブラリに登録しているイラスト素材のポーズ違いがほしいというニーズが多く、既存の素材をベースにいかに当社のトーンにあった素材を生成できるか、引き続き検証を進めます。
廣瀬:
これまでベクター素材の編集ができるのはillustratorが操作できるデザイナー人材だけでしたが、Adobe Fireflyで編集できれば制作の裾野が広がります。
また、Adobe Fireflyの活用は今後進んでいくと考えています。2026年時点では、生成画像をそのまま最終アウトプットに使うのは、クオリティやブランド保全の観点から、慎重になるべきだと感じています。一方でアイデア出しやラフ制作などの工程に積極的に活用できれば、効率化が進んで人が注力すべき部分に時間を割くことができる可能性を感じています。AIを活用した効率化と、私たちらしさを担保するブランドをどう守っていくか、引き続き試行していきたいです。


※記載の内容は2026年5月現在のものです。内容は予告無く変更になる場合がございます。
